- HOME
- 肛門疾患
痔核(いぼ痔)
内痔核
病態
以前は、肛門付近にある静脈叢が排便時などのいきみによりうっ血し、増大していくと脱出してくると考えられていました。最近は支持する組織が弛緩して、静脈の流れが悪くなり痔核が増大してくると考えられるようになってきました。
症状
初期の段階では違和感、残便感、出血などです。痛みはほとんどありません。進行すると排便時に脱出し、はじめは自然に肛門内に戻りますが、次第に指で押さなければ戻らなくなります。さらに進行すると、重いものを持ったり、運動や歩行時にも飛び出すようになり、出血も増えてきます。脱出を繰り返すと随伴裂肛(きれ痔)や血栓(血の塊)形成、感染を伴い疼痛が生じます。脱出し戻らなくなってくると循環障害を起こし、痔核表面が壊死に陥り、かなり強い痛みを伴うようになります。
内痔核の臨床病期分類
1度:肛門管内にふくれているが脱出しないもの
2度:排便時に肛門外に脱出するが、排便後は自然に戻るもの
3度:排便時に脱出し、指などで押し込まないと戻らないもの
4度:常に肛門外に脱出した状態のもの
治療
上記の1〜2度は軟膏や座薬などで保存的に治療します。また、生活習慣が原因のひとつであるため、生活指導を行います。
3度以上は基本的に手術治療などが必要になります。当院では原則として手術治療を行いますが、病状もしくは患者さまの要望がありましたら硬化療法やゴム輪結紮療法などを選択します。
手術治療について
当院では現在、主流である結紮切除術をおこなっています。これは、肛門の縁から2センチほど外側の皮膚を切開し、肛門に向かって進めていき、肛門括約筋から腫脹した静脈叢を剥がしていきます。奥より痔動脈が痔核に向かってきており、これを結紮し痔核組織を取り除きます。
切除後は縫合せずにそのままにするか、半分閉鎖縫合しますが、傷は開放にしておきます。傷がふさがるのには1〜1.5カ月かかります。
外痔核
病態
肛門の縁の静脈叢に血液がうっ滞し、血栓が形成され腫れたものです。座りっぱなし、立ちっぱなしといった同じ姿勢を続けたり、急に運動したり、重いものを持ったり、ストレスなどが原因とされています。
症状
肛門の縁にコリコリしたしこりを触れるようになり、急に違和感や痛みがでるようになります。
治療
内痔核がほとんどなく、外痔核のみであれば、ほとんどが薬でよくなります。痛みが強かったり、腫れがひどくなった場合は血栓を取り除く処置をすることもあります。
裂肛(きれ痔)
病態
便秘などに伴い、便が硬く太くなることにより、肛門縁の皮膚が過伸展されることや、血流障害によって切れる状態です。また、下痢を繰り返す方も切れやすくなります。急性のものと慢性のものに分けられます
急性裂肛
肛門上皮が浅く切れた状態で、排便時に痛みを感じる、ティッシュに少し血が付くといった症状です。温水洗浄トイレでしみることもあります。痛みは数分で消失することが多いです。
慢性裂肛
同じ場所が切れる状態が続き、傷が深くなり潰瘍を形成し、肛門の縁に見張りいぼといわれる皮膚のたるみ(皮垂)ができたり、肛門内に肛門ポリープができたりします。ポリープは大きくなると内痔核のように肛門の外に飛び出すようになります。また、炎症が続くと筋肉が繊維化を起こし硬くなり、肛門狭窄になったり、痔ろうを形成したりします。
症状
急性期は軟膏や座薬、生活指導で治療します。慢性化し狭窄をおこしたり、肛門ポリープが形成されたり、痔ろうになった場合は、薬物治療ではよくなりません。このような時は肛門を広げたり、切れやすくなった部分に外側の皮膚を切り、粘膜に縫い合わせるといった手術を行います。
痔ろうおよび肛門周囲膿瘍
病態
肛門管にへこみ(肛門陰窩)があり、その奥にある細胞(肛門腺)に細菌が侵入し、膿が溜まった状態が肛門周囲膿瘍です。膿が出て一時的に炎症が落ち着き、しこりのような管になったものが痔ろうです。細菌が侵入する肛門陰窩を一次孔、皮膚に開通した穴を二次孔、一次孔と二次孔の間の管をろう管といいます。
痔ろうと肛門周囲膿瘍は病期の違いで、同一の疾患です。
治療
痔ろうは経過が長いとがんになることがあるため、特殊な場合を除いて手術治療を行います。方法としては、ろう管を開く、切除する、くりぬく、一次孔と二次孔にゴムなどを通し、徐々に切っていく。といった方法をとります。痔ろうの場所、広がり、形、肛門からの距離、深さなど所見はさまざまで、それぞれ方法が違ってくるため、ここで詳しくは述べませんが、大切なことは一次孔をきちんと処理することです。ここの処理が不十分だと再発の原因となります。
直腸脱
病態
原因はさまざまな意見があり、はっきりとしたことはまだ解明されていませんが、直腸を支持している組織が緩むことによって、直腸が粘膜から筋層まで全層にかけて肛門外に飛び出してきます。また、肛門括約筋の緩みも関与しています。
症状
初期段階では内痔核のように排便時に肛門外に飛び出してくる、といった症状が多いです。進行すると数センチから数十センチ脱出するようになります。肛門括約筋の緩い方が多く、肛門内に挿入してもすぐに脱出することが多いです。若い方にも発症しますが、高齢の方に見られます。
治療
手術が必要となります。
方法はさまざまなやり方が試みられていますが、当院では、“Gant-三輪法”および、“Thiersch法”を施行しています。これは、緩んだ粘膜を数十カ所にわたりつまんで糸で縛り、縫縮していくことによって脱出しないようにします。また、全例ではありませんが、肛門括約筋が弛緩していることが多いため、適度な広さにまで肛門を縮めます。
肛門周囲皮膚炎・肛門掻痒症
病態
肛門の周囲がただれ、かゆみが出てきます。
症状
拭きすぎ、こすりすぎといった直接刺激が原因である場合がもっとも多いです。
また、温水洗浄トイレの水圧を強くしすぎることもよくありません。痔核や裂肛によってできた皮膚のたるみ(皮垂)や便失禁、腸内の分泌物などにより肛門周囲が湿った状態が続く、また下痢をよくすることも多い原因のひとつです。真菌(カンジダ)による場合もあります。
治療
ほとんどは軟膏や飲み薬で治療します。生活指導も重要になります。原因が痔核や皮垂による場合は、それに対する手術をすることもあります。
直腸瘤(直腸膣壁弛緩症)
病態
直腸の前壁と膣の間は薄い壁になっており、排便時などに直腸前壁が膣の方に突出してしまうものです。
症状
便秘や残便感です。また、肛門と膣の間を指で押すと、排便しやすくなったりします。直腸瘤が肛門の出口近くの場合は会陰部が膨らみます。
治療
排便および生活習慣の指導や軟便剤の投与で治療します。それでも改善しない場合は手術をします。手術の方法は経肛門的、経膣的、経会陰的修復法があります。当院では皮垂や内痔核も同時治療できる経肛門的修復法を施行しています。これは、直腸瘤の部分を吸収糸で縫縮する方法です。
肛門ポリープ
病態
肛門内にできるポリープのことで、一般的に裂肛(きれ痔)が慢性化することや、内痔核の脱出が繰り返されることによりできます。
症状
便ポリープが大きくなった場合は肛門外に脱出します。痛みなどはありません。
治療
原因疾患がほとんどなく、ポリープのみが脱出するほど大きくなった場合は、そこだけを切除します。裂肛や内痔核を認めた場合は、それに対する治療をします。
肛門尖圭コンジローマ
病態
ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって生じます。多くが性感染症(STD)によるものといわれています。
症状
違和感やかゆみがあり、肛門周辺皮膚に1〜2ミリ程度の小さなザラザラした隆起が散在するものから、それらが集まってカリフラワー状になるものまであります。当院は肛門科であるため、肛門に病変がある方が中心ですが、当然外性器にも同様のものができます。
治療
軟膏などで治療することもありますが、切除することをおすすめします。
肛門がん
症状
肛門にできるがんで、さまざまなものがあります。痔ろうが原因となることもあります。痛みや出血、便が細くなるといった症状が出てきます。
治療
手術や放射線治療、化学療法が行われます。
膿皮症(化膿性汗腺炎)
病態
皮膚にある汗を出す細胞(汗腺)が何らかの刺激により炎症を起こすことによると言われています。肛門周囲や臀部が好発部位です。痔ろうによる肛門周囲膿瘍に似た症状となることもありますが、肛門とは直接関係がありません。
症状
肛門周囲や臀部に痛みや腫れを認めます。大きさは大豆くらいの大きさから、おしり全体におよぶものまでさまざまです。何カ所にも発症することがあります。一時的に改善しても、何回も繰り返します。
治療
化膿しているときは、切開し膿を出します。繰り返す場合は病変を摘出します。広範囲におよぶ場合は皮膚移植が必要になることがあります。
フルニエ症候群
男性に多く見られます。はっきりとした原因は分かっていませんが、糖尿病や腎不全、アルコール中毒などの基礎疾患がある方に多く、皮膚や泌尿生殖器、直腸肛門系に何らかの感染が起こり発症すると考えられています。難しくなりますが劇症型壊死性筋膜炎が本体です。陰嚢を含む会陰部から肛門周囲、場合によってはそれ以上に広がります。症状は病変部が腫れ上がり、激痛があります。
壊死組織は酸味臭を伴うことが多いです。治療は早期に診断し、壊死した部分を取り除き、膿を出してあげることが重要です。
毛巣洞
病態
尾骨部に発症するもので、毛が皮下に入り込むことによって炎症を繰り返してできるものと言われています。毛深い人にできやすいようです。
症状
尾骨部から膿が出たり、痛みが出たり、小さい穴として認められることがあります。
治療
薬物治療はほとんど作用無く、手術により摘出します。
特殊な皮膚病変
ここではパジェット病(Paget病)とボーエン病(Bowen病)を例にあげますが、ともに稀な病気です。肛門のかゆみや発赤、ジュクジュクした感じがあり、最初は皮膚炎と診断され、軟膏などで治療されることが多く、なかなかよくならないということで本症を疑われることがあります。どちらも手術が必要です。
パジェット病(Paget病)
悪性度は低いが、がんが合併することがあります。発赤した湿疹のように見えます。
ボーエン病(Bowen病)
表皮内の扁平上皮がんで、扁平に隆起し紅褐色を呈します。